所感

日々思ったことを書き連ねます。

小説を書くのが好き。

暗めの話を投稿してしまった故、どうせならちょっと別方向の話も書いてみる。

小説を読むのが好きだ。

趣味が高じて、書くのも好きだ。

 

僕は高校生の頃から仲のいい友人らが居る。

彼らは「小説を自分で書いたろうぜ!」という名目の元集まった、個性豊かなメンバーだ。(※なお現在は殆どのメンバーが書いておらず、日々ゲームしたり勉学に励んだり、昔よりとても散り散りになっている。)

彼らと話しているうち、自分でも書いてやろうと意気込んで、小説を書くようになった。

 

基本的に僕は話を紡ぐのは得意だが、最初しか紡げない。

続けるということが絶望的に下手なのだが、そんな僕でも一つだけ仕上げることが出来た小説があるので、下に掲載してみる。

なお、これは高校生の頃の課題で提出したもので、文字数制限があったためにかなり文を削っている。

いつか加筆修正したいものである。

今やれよ?うるせえ!読め!

 

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学校での授業も終わり放課後。文学同好会という名目で設立された読書同好会に与えられた小さい教室の窓際で、僕と先輩は本を読んでいた。
本の頁を捲る音だけが響いていた教室で、僕はポツリと呟いた。
「先輩って、僕が行く先々に居ますよね。この間買い物に行ったときも会いましたけど」
先輩が本を読むのを止めて、僕の方へ視線を向ける。
「毎回そうである訳じゃないだろう?まぁ、私だって私の行く先々に君がいて驚いているよ」
「なんというか先輩って、どこにでも居るけれどどこにも居ないような、そんな雰囲気ですよね」
「はは、シュレディンガーの猫か、私は」
そのまま先輩が本にまた目を落とすと、再び教室には本の頁を捲る音が響き始めた。

 

いつの間にか寝てしまっていたのだろうか、僕は机に突っ伏していた。
背中には毛布が掛けられていて、ふと見ると机の上にはメモ書きが残されていた。
あぁ、先輩は定期健診の日だっけ、と、活動が始まる前に先輩が言っていた事を思い出す。

先輩は病を患っていて、現代の医学薬学では完治まで持っていくことは難しいどころか進行を止めることすら難しいらしい。聞いた話によると症状は、初めに体の色素が抜け落ちていき、段々と体の感覚が失われていき、最終的には死に至るという物だ。先輩は既に体の色素が失われていて、見えるところだと髪の毛やまつ毛が既に真っ白になっている。あの調子だと最早感覚すら失われ始めていそうで、怖い。

 

先輩は僕と話している時、いつも気丈に振舞っている。以前先輩が僕より先に教室に来ていた時に驚かそうかと思って様子を伺ったら、心臓の辺りを手で押さえて苦しそうにしていたのだ。
それ以来僕は先輩の辛そうな姿を見ていないが、多分それは僕のことを気遣って、苦しいのを耐えているのではないだろうか。あくまで予測の域を出ないが、あの先輩の事だ、きっとそうなのだろう。
机に置かれていたメモ書きを見ると、案の定そこには定期健診に行く旨のことが書かれていた。
何度感じただろうか分からない、何もする事が出来ない自分自身の非力さを、また僕は感じる事になった。

 

次の日、先輩は学校には来なかったらしい。何かあったのだろうかと思い、学校が終わった後に先輩が通っている病院へと来て、先輩の居る病室の前に居るわけなのだが。もし先輩に何かあったら、という恐怖から後一歩を踏み出すのが恐ろしい。が、ここまで来て帰る訳にも行かないので覚悟を決め、唾を飲み込みノックをする。どうぞ、という先輩のいつも通りの声がしたので僕は安心してスライド式の扉を開けた。
扉を開くと、そこには病衣を着た先輩がベッドに座って、本を読んでいた。先輩はそのまま目線をこちらに向けずに話しかけてきた。
「やぁ、また会ったね」
「シュレディンガーの猫、ですか、先輩は」
顔だけこちらを向いて、少々やつれた様にも見える顔で先輩は力なさげに微笑んだ。
「ま、そんなところかな。いつ死ぬかも分からないこんな身体ならこの世に居るも居ないも同じだろう?」
それは違う、と言いかけて口をつぐむ。言葉だけでなら何とでも言えるのに、僕はそんなに安易にその先輩の言葉を否定してしまっていいのだろうか。今、先輩にどういう言葉を掛けたらいいのか、僕には分からなかった。
「…ごめん、私は今君に意地悪な事を言ってしまったよ。病気が今どこまで進行しているのかを聞いて、ちょっとピリピリしてしまっているのかもしれないな、私は」
自嘲気味にまた笑った先輩に、恐る恐る進行状況を尋ねると、先輩は少しずつ話してくれた。

 

病気の進行速度が今までの比にならない程の速さである事。もう学校には行けない事。手足の感覚が薄れ始めている事。そして、今も胸が圧迫されるような苦しさに見舞われている事。
聞いて、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。確かに予兆はあったのかもしれない。僕が先輩の苦しそうにしていたのを見たのは最近の事なのだ。
先輩がもっと遅くに産まれていたら、もしかしたらこの病気の治療方法だって見つかっていたかもしれないのに、と、心からそう思った。
「今君は、私がもっと遅くに産まれていたらよかったのに、とか考えていないかい?…それは間違いだよ。私がこうしてこの病気に掛かった事で、もしかしたら未来にこの病気に掛かった人を治療する方法が見つかるかもしれないだろう?

私が死んだら、この身体は病院側に引き取られて、そのまま研究材料として使われる予定になっているのさ。これは、私自身が望んだ事なんだ」
さて、と先輩が身体もこちらに向けてニヤリと笑う。
「私が学校を休んでいる間、学校で何があったのかを君に話しに来てもらおうかな。毎日とは言わない、忙しい時は来なくても構わない。…だから、私に顔を見せに来てくれ」
僕がその申し出を二つ返事で了承すると、先輩はありがとう、と小さく呟いた。

 

その日から僕は、先輩の病室に一日と欠かさずに通った。
先輩は僕の学校での生活の心配をしてくれたが、僕としては先輩と一緒に居る時間の方が大切だった。
僕がその日何があったのかだとか、先輩との思い出話をすると先輩が笑ってくれて、そういう先輩を見ると、その度にずっと一緒には居られないという現実が僕の胸にのしかかってくる。
だけども、だからといって僕が先輩の前で悲しそうな顔をすることは絶対にない。先輩が僕の前では明るく振舞ってくれたように、僕も同じように先輩の前では明るく振舞った。
「思ったのだが、忙しいときは来なくても構わないと言ったにも拘らず、君は毎日毎日この病室に来ているが、もしかしてアレか?私のことが好きなのか?君は」
不意に、本を読んでいた先輩からそんな事を聞かれる。余りにも突然だったので僕は驚いて、しどろもどろになって答えた。
「えぁ、う、そ、そう、ですけど」
そうか、と言うと先輩はまた本を読み始めた。
それだけ?と思ったのは仕方の無い事だと思う。が、その件に対してそれ以上僕が先輩に追求できるわけもなく、僕も持ってきていた本を読む事にした。

 

次の日の事だ。先輩は目が見えなくなった。残っているのは聴覚だけだと本人から伝えられた。
先輩はもう好きな本を読む事もなくなったし、僕の姿も見えなくなったが、声は聞こえると言うので、僕は来る日も来る日も先輩と話し続けた。先輩は、僕との会話で笑ってくれた。
僕が辛くなって先輩の隣で泣くと、先輩は触覚の残っていない手でそっと、僕のことを撫でてくれた。
君は子供だなと諭すように言いながら、ずっと。小さな手で。

 

「なんだ?私のことが好きな事ならもう知ってるが、それ以外の用か?」
ある日僕が先輩の名前を呼ぶと、笑って茶化してきた。僕は少々むっとして、そのまま押し黙る。
「…おい、そこに居るのか?私を一人にしないでくれ」
先輩が本当に心配そうに言い始めたので、僕は話しかける事にした。
「ここに居ますよ、先輩」
笑いながら僕が言うが、先輩は焦る事を止めない。
返事をしてくれ!という先輩の顔はどう見ても僕を騙すだとかそういう類の物ではないと分かる。
先輩はこの日、ついに五感全てを失ってしまった。

 

夜中の事だ。眠っていた僕は携帯の着信音で目が覚めた。着信の相手は病院からで、先輩の容体が激変した、と伝えられた。
病室に着くと、そこには先輩の両親と医師の姿があり、先輩は苦しそうに胸を押さえて蹲っているのが目に飛び込んできた。
「…君の、名前を呼んでいたんだ。どうか傍に居てやってくれ」
飛び寄った僕が先輩の手を取って必死に呼びかけると、耳が聞こえないはずの先輩が小さく、僕の名前を呟いた。
「私は…シュレディンガーの猫だ…どこにでも居るし、どこにも居ない。だから私が死んでも…決して悲しむことはない。私は、君の心の中に…ずっと、居るから」
そうだ、と先輩は微笑んで付け足した。
「返事をしていなかったな…私も、君のことが好きだよ」と。

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